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- 細胞の生死を制御する -
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| ニュース |
Nod2欠損マウスを利用して腸でのNod2の役割などを調べた論文がScience
に出ました。今後のクローン病の研究に大いに役立つものと思われます(2/4)・・・同時に奇妙な論文もいっしょに出ました(こちらは追試の広
場)
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Postdoctoral Position |
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「お前は死について聞くが、私は 未だ生について知らないのだよ。どうして死について知っていようか」(巻第六先進第十一11-12)
科学の発達した今日、多くの生命現象が分子レベルで解明されてきています。現在、科学の分野では死についても真剣に研究されるようになってきて います。
諸行無常、生きとし生けるものはいつか死ぬ
これは真実です。しかし、人の死のパターンにもいろいろありま す。不幸にしてやって来る事故死、老いからくる死、どちらともいえない病死、計画的な殺人と自殺。
人は多くの欲を持っていますが、もっとも強い欲求はもっと生きたいというものではないでしょうか。そこで交通事故や病原感染の防 止といった不慮の死を回避する様々な手段をこうじています。年々、技術が発展して人は長寿化する傾向にあります。 にもかかわらず、人は死にます。現代では上記が減少するのに応じて、今まで感染症や循環系異常などによる死に隠れて見えなかった癌による死が増えています。 なぜ、死はあるんでしょう、かつて仏 陀は四門に四相を見て出家を決心しましたが、これは仏陀のみが感じた疑問だけではなく人類の大命題です。
人の体を作るのは細胞です。
ですから人が死ぬ(個体死)時はふつう細胞の死ぬ時でもあります。しかし、人の体は約60兆の細胞からできていますが、これらの細胞は培養して やると個々に生きることができます。それでも細胞はいつか死にます。そのうちの一つは摂取する栄養分がなくなったり、物理的に傷ついたりといった「不慮の 死」です。
そも、昔の生命には「不慮の死」以外のこうした死は存在しなかったと考えられます。
遺伝子と体の類似性などから、今の生命は同一の起源より起こったものと容易に推定されます。化石 的根拠などからこれらは単細胞生物であると考えられています。単細胞生物は一般に無限増殖を繰り返し、いつまでたっても老いず不慮の死以外 には死にません。しかし、人の体はこうした細胞の単なる集まりと異なって、全体で「からだ」として働くために、ちがう働きを持った、ちがった形を した細胞(機能的・形態学的に分化した細胞)からなります。生きた細胞は新陳代謝を行いますが、体の中のいくつかのしくみを維持するためには、それを支え る細胞自体が絶えず増殖して死滅を繰り返す必要があります。たとえば、皮膚では絶えず表皮細胞が増えて死んで垢となっていますので、たとえ皮膚の細胞が太 陽光線で傷ついても次の新しい細胞が皮膚を守れます。これを計画細胞死と呼びます。
では、進化の過程ではこの有限の生と計画細胞死はどのように獲得されたのでしょう。
真実は時の彼方ですが、系統分類などから、以下のことが推定できます。「卵」以外にそれ
を保護する「殻」をもつものがあらわれました。初めは単に乾燥などの急激な単純な環境変化に耐えるだけのためでした。その後、この殻はより効率のいい繁殖
を支える母体となります。初めは単なる殻であったのに、やがて形も複雑になり、生殖を効率的に進める器官となります。その多様性を個々にあげると先に話が
進まないので省略します。こうして生殖細胞を保護していた殻は今や人の体の大半を占めるまでになったわけです。殻は所詮殻、いつかは腐り落ちていくもので
す。しかし殻を持つことで生存に有利になったことはいうまでもありません。さらにその「殻」がもっといろんなことをしてくれると、もっと有利です。つまり
長い進化の末、我々生命は積極的に有限の生(老化)と細胞死を獲得したと言えるわけです
(後述の「再び問う 死はどこからきたか」参照)。
| 関連項目 | 関連リンクの説明 | リンク先 | 推奨 |
| 細胞の誕生と死 | by和田勝氏。細胞の誕生と生死についてよくまとめてある。全体も秀作なので時間のある人は最初から読 むことをお勧めする | 東京医歯大生 物学内 | AA |
| 宇宙観 | by匿名。時間別によくまとめてある。 | A |
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ヒトなどのこうした体細胞中心の生命体では、全体(個体)の統合性がもっとも大切です。
そのために、こうした生物では、個体という自分らの集団に、その存在を脅かす厄介者がいたら排除するし
くみを身に着けています。大きくおおよそ3つに分けると
厄介者のもっとも最たるものは天敵や体の中に入ってくる病原体です。また、厄介者は外からだけとは限りません。
体の中で分業している細胞や、体を作ったり維持するために一過的に必要な細胞のなかには、その場所や時期以外にい てもらっては困るものもいます。たとえば、赤ちゃんの体ができる途中でいつまでも水かきが手にあると、ちょっと困ります。
また、発癌剤や放射能などで遺伝子が傷つくと、ちょっとぐらいなら細胞は自分で直してしまうのですが、あんまり遺伝子の壊れ方が ひどいようだと、修復不能になったり、修復の途中で間違ったりしてしまい、癌細胞などの元となります。癌細胞は体全体のことを考えず勝手なことをやるので、これも厄介 者です。
また、人は「自分」の細胞を病原といった外敵から守るためのしくみを持ちますが(免疫系といいます)、免疫系の細胞が正常な仲間 の細胞をも攻撃したのではこれまた厄介者です。
こうした身内の厄介者は、外部からの侵入者である病原のようにやが て除かれてしまいます。ヒトの場合、最終的に免疫系の細胞に食べられて除かれてしまいます。ただ、除く側の立場からすると、病原のように外部のやつらと、 このような元々身内だった厄介者では対処の方法が異なっています。外部の者の場合、強力な免疫兵器で攻撃して撃退するだけでなく、次回の攻撃に備えて、顔 をしっかりと覚えておき、入ってきたとたんに袋叩きにすることができます。ところが、このような元々身内だった厄介者の場合、こんな特徴のヤツが厄介者に なりましたよ、ということで覚えておくと、今まともに仕事をしている仲間の細胞も同じ顔をしているわけですから、彼らまで攻撃してしまうことになります。 これが自己免疫疾患と呼ぶ病気です。そこで、こうした内部の厄介者たちは、外部からの敵とは違った方法で粛々と処分されることとなります。 ではどうやって?生命は奇想天外な方法を思いついたのです。
自分が厄介者になったら自殺する(計画細胞死を行う)ように細胞一つ一つに遺伝的にプログラムしたのです。
遺伝子か傷ついたり、体に不必要になったりした細胞は静々と自らに備わったしくみで、自らを分解していきます。体の重要な成分である蛋白質を分
解する酵素(プロテアーゼ)と自
らの遺伝子を壊す酵素(DNA
分解酵素-DNase-)を活性化されます。
| 役割 | 具体的な役割 | 例 |
| いらない細胞を除く | 有害細胞を除く | 遺伝子が傷ついた細胞(癌細胞の予備軍) |
| 自分を攻撃する免疫細胞 | ||
| 余った細胞を除く | 脳のネットワークができる途中で余った細胞 | |
| 役割を終えた細胞を除く | みずかきとか、体ができる途中ではいるんだけども完成するとき不必要な細胞ができたとき | |
| 体の機能を維持するための細胞の代謝 | 表皮の細胞 | |
| 免疫系の細胞 |
こうして、個々の細胞の死は、全体の統合性のために、つまり個体として生きるために必要になったのです。
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こうした細胞の生死調節に関する研究ははじめ癌細胞の研究からはじまりました。彼らの中には不死化し、増殖を重ねることができるものがありま す。かつて米国でヘレンという人が癌でなくなりました。しかし彼女の細胞は不死性を獲得し、増殖を続けています。今では世界各地の実験室で人の実験細胞と して飼われています。こうした不死化した細胞の種類は星の数ほどあり、今の医学の基礎研究に多いに役立っています。こうした細胞は遺伝子に変異異常を抱え ています。
癌細胞は増殖性を獲得するだけではなく、深刻なものでは抗 癌剤も放射線も効かず自殺を引き起こしません。ふつう、これは細胞の正常な増殖と生存を監視する癌抑制遺伝子が壊れているためです。なかでも癌抑制遺伝子産物p53は 遺伝子の異常を発見し、そ の細胞が自殺するように仕向けます。もしもp53遺伝子そのものが壊れると、遺伝子異常を起こすほどの放 射能を浴びても細胞は死にません。こうしてp53 がないと高発癌性となります。
細胞死の研究の上で重要な第二の因子も癌から見つかりました。ある濾胞性リンパ腫の原因遺伝子を突き詰めると、この遺伝子は細胞の増殖ではなく 専ら死を調節していることがわかったのです。Bcl-2の 発見です。かくて、細胞の生死を制御するメカニズムを解明する時代が始まりました。
不慮に細胞が機械的に破壊されたり、飢餓状態に陥れられたりした時の死(ネクローシスといいます)と異なった形の変化と共通の過程をたどるので す。このホームページ先頭で示したように遺伝子の場である核が凝縮します(下表内図参照)。凝縮した核の中には密度の濃いところが見られま す。核に収められている遺伝子DNAは分解酵素でバラバラにされます。細胞表面の膜(原形質膜)の構造が破壊され細胞の本体部分に当たる細 胞質も細切れになってきます(これをアポトーシス小体とよびます)。しかし、あくまで細胞の内容物はその膜の「袋」に包まれたままです。「袋」ではその細 胞自身の蛋白質やDNAの分解酵素が働いて自分自身を分解しているのです。こうした細胞死をア ポトーシスと呼びます。
体がだんだんとできたり、老朽化した細胞を排除する過程ではアポトーシスを起こした細胞は炎症を起こすことなく、細胞の内容物が外に漏れる前に
免疫系の細胞に食べられてしまいます。わたしたちの体は免疫により病原などの外敵から守られているのですが、この場合、細胞がこうした病原体で殺されると
しばしば細胞の内容物が漏れでて、病原体をやっつける様々な免疫反応を起こします。自分の体内の要らない細胞や危険な細胞を除くときには自分自身を攻撃し
ないように、こうした外敵を除く免疫系を活性化しない方法で細胞を処理するのです。
| 何のアポトーシス? | 内容 | 説明 | リンク先 | 推奨 |
| 好中球 | HTML | 膜のブレビングがくっきり。動画あり | CELLS alive | AA |
| ハラキリで | JPEG | 核が凝縮したり、ばらばらに | このHP内 | AA |
| CIDEで | JPEG | 細胞が凝縮し、膜がブレビング | このHP内 | BB |
| c-Mycで | MOV | 細胞死の経時変化がよくわかる(重い) | Gerald Evans' | AA |
| LLCPK細胞 | JEPG | 黄色い核の凝縮がはっきりと | Miguel's | AA |
| 乳 腺細胞 | JEPG | 核凝縮がくっきり。 | Miguel's | AA |
アポトーシスは偶発的な死と異なり、いろんなしくみで制御されています。細胞の情報の根元は遺伝子です。遺伝子DNAには細胞の 生死を決定する遺伝子があり、これによって厳密に調節されています。またこれらの遺伝子自体も細胞同士の相互連絡で制御されており、いつ死ぬべきか個体と しての全体的統合性を考えた上で決められています。こうした点からもアポトーシスは他の死と大きく異なります。計画細胞死は下等な動物から植物まで広く認 められますが、動物のほとんどの計画細胞死はアポトーシスです。
余談ですが、植物などの動物以外の生物でのアポトーシス様の形態をたどる細胞死が観察されていますが、前に述べたようにアポトーシスはこれらの 生物にはない免疫系との関連が強い生理的意味合いを持つため、同義に論じられるかどうか語論のわかれるところです。また、動物以外にはこれからこれら述べ るアポトーシスの立役者たちは原則的に存在しません。
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個体全体の統合性にとって計画細胞死はたいへん大切なので計画細胞死を調節する遺 伝子や因子には細胞の増殖とも関連するものもあります。一方で計画細胞死を専ら制御する遺伝子もいます。例えば、Bcl-2とそ の仲間です(表)。はじめ、タンパク質の一種Bcl-2を作る遺伝子bcl-2は 濾胞性リンパ腫の原因遺伝子として見つかったのですが、その後その仲間が報告されてBcl-2ファミリーというタンパク質群からなることがわかり ました。Bcl-2ファミリーのうち、Bcl-2やBcl-xLな どはアポトーシスを抑制します。Hrk(Harakiri), Mtd, Bax, Bakなどは細胞死を引き起こします(後述)。人工的にBcl-xL遺伝子を培養細胞に入れてやると培養細胞のアポトーシスは抑制されます。逆にHrk遺 伝子を入れてやると細胞死は促進されます。こうして細胞の生死を制御できます。実際の人体では遺伝子を出し入れしているわけではなく、遺伝子やその産物で あるタンパク質の働きが制御されています。いつスイッチオンになりオフになるかで生死を制御しているわけです。Bcl-xは脳で特に多く含まれています が、同 遺伝子を破壊したねずみは大量の神経細胞が死に、胎児の段階で死亡します(Bcl-2ファミリーの働きの詳細については後述しています)。
このようにアポトーシスを制御するタンパク質を大量に作ったり、逆にその遺伝子を破壊してその影響を調べることで、アポトーシスを調節するメカ ニズムがだんだんと明らかになってきました。
表 Bcl -2ファミリー 哺乳類のもののみをあげた。この他、線虫Ced-9,Egl-1、 ゼノパスはxR1、xRII、 ウズラはNR-13、 ウィルスはBHRF1,LMW5-HL,ORF16,vBcl-2な どをもつ。遺伝子の配列が決定されていないものはcDNAの配列をリンクさせた。独自の判断でBRAG1とBNIP3/BNIP3Lは 加えていない。BH3サブファミリーには膜結合部位のある強力なもの(1)と膜結合部位のないもの(2)がある。
遺伝子名 その産物 (タンパク質)
機能 その他 bcl-2 Bcl-2α 抑 制 濾 胞性リンパ腫の病因遺伝子 bcl-x Bcl-xL 抑 制 おおよそどこでも発現しているが、脳に特に多い。
立 体構造 (RasMolで 閲覧)mcl1 Mcl-1 抑 制 マ クロファージ誘導遺伝子 A1(bfl1) A1(Bfl-1) 抑 制 GM -CSF誘導遺伝子 bcl-w Bcl-w 抑 制 精 子形成に重要 bax Baxα 促 進/抑 制 細胞の種類によって細胞死の抑制vs促進が変わるという bak bak 促進 /抑制 Bcl -xLとの結合像 (RasMolで 閲覧)。シグナルの種類によって細胞死の抑制vs促進が変わるという bok/mtd Bok/Mtd 促 進 成体では卵巣に多い diva Diva/Boo 促 進/抑 制 成体では生殖系に多い bcl-g Bcl-Gs/Bra
Bcl-GL促 進 成体では精巣に多い bcl-rambo Bcl-Rambo 促 進
bpr BCL2L12
harakiri Hrk/DP5 促 進 単BH3サブファミリー。誘導遺伝子 bik/nbk/blk Bik/Nbk/Blk 促 進 単BH3サブファミリー bad Bad 促 進 単BH3サブファミリー。Akt/PKCa/PAK1によってリン酸化されると無力化 bid Bid 促 進 細胞外からの細胞死誘導経路の補強
立体構造(1,2)bim Bim/Bod L,M,S 促 進 単BH3サブファミリー。日 頃細胞骨格タンパク質に結合しているがIL3除去で細胞骨格から遊離して作用。 bmf Bmf 促 進 単BH3サブファミリー。日 頃細胞骨格タンパク質に結合しているが細胞同士の結合がむりやり離されると細胞骨格から遊離して作用。 noxa/apr Noxa/APR 促 進 単BH3サブファミリー。誘導遺伝子 bbc3 Puma/Bbc3 α,β,γ,δ 促進 単BH3サブファミリー。誘導遺伝子。p53による細胞死に関与
| 他の参考HP | 内容 | リンク先 | 推奨 |
| Bcl-2ファ ミリーの構造と機能の総説。アポ トーシス全体もいい。 | HTML | J. Masuda-Robens | AA |
| Bcl-2ファミリー構造の概略。E.Whiteによる。ちょっ と古い。Bad,Bax, Bak以外はほぼ正しい。E1B19Kは疑問 | GIF | E.White | A |
| Bcl-2ファミリー構造の概略。C.B.McBrideによる。 ちょっと古いが詳しい。Bax,Bak,Bad以外はほぼ正しい | HTM | C.B.McBride | AA |
| より詳細なBcl- 2ファミリーのリスト(英語版)。研究者向け。BH3タンパク質など一部抜けている | HTM | ProWeb | A |
| よ り詳細なBcl-2ファミリーのリスト(英語版)。研究者向け | HTM | 猪原 | AA |
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線虫の仲間を 使っておもしろい実験がなされました。線虫ではわずかな1090個の細胞よりなりますが、神経もあれば口だってお尻だってあります。この生物にもきちんと 計画細胞死(131個の細胞死)があります。また、全遺伝子(ゲノム)の構造(塩基配列)が決 定され、実際に体の中で働いている遺伝子(mRNAといいます)のほとんどが発見されています。このシンプルなモデル生物で調べると、きっと最低 限必要な遺伝子が何かわかるでしょう。
解析の結果、3つの遺伝子が発見されました。細胞死を引き起こすのに必要なced-3, ced-4と 細胞死の抑制に必要なced-9で す。もしもこれらの遺伝子の変異すると細胞が死にすぎたり、逆に余分な細胞が出現します。
| 画像 | 内容 | リンク先 | 推奨 |
| 遺 伝子ced-3が壊れて余計な細胞が体にあるミュータントの線虫 | JPEG | Miguel's | 現在リンク切れ失礼 |
これらの遺伝子が作るタンパク質をヒトと比べてみると、Ced-3はプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)の一種であるカスパーゼの仲間であり、Ced -4はCed-3の活性化因子の一種であることがわかりました。また、Ced -9はBcl-2の仲間でした。タンパク質は生命活動に必須な生体の主要な成分ですので、これを破壊するカスパーゼ Ced-3は細胞の処刑人といえます。Ced -4はCed-3に結合して活性化し、アポトーシスを誘発します。これに対してCed-9はCed-4に結合して、Ced-4がCed-3を活性 化するのを抑えます。
その後、ヒトのアポトーシスも基本的には類似の機構により制御されていることがわかりました。実際、ヒ トのBcl-2遺伝子を線虫に入れると部分的ではありますが、計画細胞死が抑えられます。ただ、人間の場合はもっと複雑です。10 種類以上のカスパーゼ、4種類以上のカスパーゼ活性化因子、10 種類以上のBcl-2の仲間(表参照)が知られています。それらの働きや存在する 組織が違っており、それ故に細胞死を肌理細かく制御できるのです。この他、ハエもカエルもヒトと同様であるらしく、細胞死を制御する機構は動物界に普遍的 に存在することが明らかになりました。
| 種類 | 線虫 | 哺乳類 | 推 奨 |
| カスパーゼ(タンパク質分解酵素) | Ced-3 | カスパーゼ1〜14 | A |
| カスパーゼ活性化因子 | Ced-4 | Apaf-1などの
Nod ファミリー, FADD, RAIDD |
A |
| カスパーゼ活性化因子阻害タンパク質 | Ced-9 | Bcl-2ファミリー | A |
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もう少し詳しく述べたいと思います。先に述べたようにカスパーゼはタンパク質を分解する酵素(プロテアーゼ)の一種です(一覧表はこちらをクリック)。 ヒトには約10-20 種類のカスパーゼが存在します。カスパーゼはやたらめたらとタンパク質を分解するのではなく、ある特定のタンパク質のみを認識して分解します。ま た、カスパーゼははじめ、タンパク質を分解できない状態(不活性状態といいます)として細胞内で合成され、アポトーシス誘導シグナルがきたときだけ活性化 されます。生きている細胞はこの不活性状態のカスパーゼを時限爆弾のように常にかかえて生きているのです。
では、どうやってカスパーゼは不活性状態を保つのでしょう。
細胞で合成されたばかりカスパーゼはその活性をすぐさま発揮できないようにするための活性抑制領域を持ちます。この前駆体の抑制領域が切断され たり構造変化を起こすと、カスパーゼは活性化されます。
カスパーゼ自体もタンパク質で、カスパーゼを切断できます。こうして、一旦、あるカスパーゼが活性化されると他のカスパーゼがそのカスパーゼに よって活性化される、という雪崩(カスケード)現象が起きます。きっかけは小さくても、効果は増幅されてドカーンというわけです。株価の暴落を見るようで す。
ヒトのカスパーゼ8,9,10は線虫のCed-3に相当し、アポ トーシス誘導シグナルに従って自分自身を切断し、活性化します(上位)。これに対して、カスパーゼ3,7,6な どは専ら、他のカスパーゼによって活性化されます(下位)。
それにしても、はじめのカスパーゼ(つまり8,9,10)はどのように活性化されるのでしょうか?
これらカスパーゼの前駆体は酵素活性や前述の活性抑制に必要な領域に加えて活性化に必要な領域を持っています。この活性調節領域が不活性状態の 維持や活性化に必要です。カスパーゼによって活性化される下位のカスパーゼの調節領域はちいさくて他の調節タンパク質が結合できませんが、カスパー ゼ8,9,10のもの(通称DED,CARD) は大きくてカスパーゼ活性化タンパク質(FADD/MORT1,RAIDD/CRAIDD,Apaf-1)に結合できます。
カスパーゼ活性化タンパク質はカスパーゼに結合するのに必要な領域をもち、その領域はカスパーゼの活性調節領域とよく似た構造をしています。例 えば、カスパーゼ9を活性化するApaf-1はカスパーゼ9の調節領域(CARD)とよく似た領域をもち、こ の領域を介して両者は結合します。
カスパーゼ活性化タンパク質はカスパーゼに結合するだけでは活性化しません。同タンパク質にはカスパーゼに結合する領域とは他に活性化に関与す る領域が存在します。この領域が存在することで受容体などからのシグナルに従ってカスパーゼを活性化できるのです。
| カスパーゼ活性化タンパ ク質 | 活性化されるカスパーゼ | 両者結合にかかわる調節領域の名前 | 多量体化領域 | 多量体化のシグナル | CARD/DED阻害タ ンパク質 |
| FADD(別名MORT1) | カスパーゼ8,10(ヒト) | DED | DD | 受容体 | vFLIP,cFLIPs(CLARP2),ARC |
| Apaf-1 | カスパーゼ9 | CARD | (d)ATPase | cyt-c | |
| RAIDD(別名CRADD) | カスパーゼ2(追試なし) | CARD | DD | 受容体(+TRADD/RIP) | ARC |
それでは、これらのタンパク質(FADD,RAIDD,Apaf-1)は具体的にはどのよ うな方法で上位のカスパーゼを活性化するのでしょうか?
実は上位のカスパーゼは弱いながら前駆体でもプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)活性が存在し、活性化タンパク質はこれを利用して活性化してい ると考えられています。カスパーゼと結合した活性化タンパク質はアポトーシス誘発のシグナルが来たときに、互いに集まります(ムズカシイ言葉で言えば多量体形成します)(1,2,3,4,5,6)。 たとえばFADDは死の受容体と似た構造(DD) が存在し、カスパーゼ8はFADDを介して死の受容体に結合します。シグナル分子によって受 容体が集められると、カスパーゼ8が活性化されるといった具合です(「きっかけ」参照)。同様にカスパーゼ9は結合 したApaf-1が集まると活性化されます。集 まったカスパーゼ8やカスパーゼ9は構造変化を起こして活性化型になります。
なお、これは別にアポトーシスにだけ見られる現象ではありません。細胞の増殖に関与する系にも同様のメカニズムによりキナーゼ(タンパク質りん 酸化酵素)が局所的に濃縮活性化されることが知られています(後述)。これは細胞内情報伝達における酵 素の近接活性化モデルと呼ばれています。受容体やカスパーゼの集合に関わるCARD,DED,DDの構 造は似ています。DDは細胞内で裏打ち集合しているア ンキリンや免疫活性化物質(インターロイキン,LPSなど)の刺激で集合するキ ナーゼとその調 節タンパク質にも存在し、広くこうした分子の多量体化形成に重要な役割を果たしています。
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アポトーシス抑制因子ARCは カスパーゼ活性化因子同様にCARDを 持っていてカスパーゼに結合できます。しかし、ARCは、FADDやRAIDDにあるカスパーゼの活性化に必 要な多量体形成ドメインであるDDが ないので、逆にアポトーシスを抑制してしまいます。またclarp遺 伝子からできるc-FLIPs(別 名CLARP-2, CASH(S), MRITβ1) はDEDのみをもち、やはりアポトーシスを抑制します。ウィルスの仲間にもアポトーシスを抑制するものがいます(後 述参照)。これらのウィルスはcFLIPsと構造が類似した、つまりDEDのみをもつタンパク質vFLIPを もっています。これらの原理もARCと同じで、アポトーシス活性化領域をこれらのタンパク質が欠いているためにこうなります。実際、人為的にDDのない FADDを大量に細胞内で作ると、アポトーシスは抑制されます。カスパーゼにとってARC, vFLIP, c-FLIPsはFADD,RAIDDの「おとり(decoy)」なのです。
| カスパーゼの詳細な一覧 | 私のサイト内にあるリスト。 研究者向け | A |
| カスパーゼの詳細な一覧 | ProWebにあるリスト。カス パーゼの研究者向け。他のリストもあり | A |
| タンパク質分解酵素の一覧 | MEROPS peptidase databaseにあるリスト。研究者向け。カスパーゼのリストも あり | A |
| カスパーゼ調節タンパク質の詳細な一覧 | 私の サイト内にあるリスト。遺伝子欠損マウスの結果も要約。研究者向け | A |
| カスパーゼの構造概略 | C.B.McBrideに よるカスパーゼの チュートリアルの中にある | AA |
| カスパー ゼの構造 | Criekingeによる(Birkbeck College) | B |
| カ スパーゼ1の立体構造 | Walker et al.,Wilson et al.(RasMolで 閲覧) | B |
| カ スパーゼ3の立体構造 | Rotonda et al,Mittl et al.(RasMolで 閲覧) | B |
| Caspase Gallery | G Jekelyのホームページ。カスパーゼの構造と機能を解説。上の構造だけ見てもよくわからない人はここで勉強できます。初心者向けにもうちょっ と踏み込んで解説してほしいです。 | AA |
| FADDのDED構造 | Eberstadt ら(1998) F25G F25Y | BB |
| RAIDDのCARD構造 | Chou ら(1998) | BB |
| Caspase 9/Apaf-1 CARD複合体の構造 | Qin ら(1999) | BB |
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だってそうでしょう?いつもカスパーゼが働いていたら細胞はバラバラになるわけですから、カスパーゼ活性化タンパク質の活性は、計画細胞死を引 き起こさなければならないような場合だけ活性化されなければならないはずです。
細胞は様々な死と生を制御する信号(シグナル)に対して応答してアポトーシスを起こします。
細胞は細胞の内側や表面に細胞死を誘導するシグナルに対してセンサーを持っています。前述のp53やCed-4/Apaf-1な どは細胞の中に存在するセンサーです。これに対して、細胞外からのシグナルをずっと細胞の表面で待っている物質もあります。膜受容体タンパク質の仲間です。
ヒトの場合、腫瘍壊死因子(TNF)とその仲間(FasLなど)は免疫系などの細胞から他の細胞に提示され、特定の細胞を殺します。死ぬ側の細胞にはTNF の仲間を受容するタンパク質(受容体)があります。この「死 の受容体」の仲間は細胞の外側にセンサーを付き出していてメッセージを受け取った時、細胞の内側に伝えるという役割をしています。TNF の仲間はいわば、伍 子胥のヒ首よろしく「死ね」というメッセージなのです(ARC参照)。
一方、細胞が生存するには「生きろ」という命令を他の細胞から受けることが必要です。例えば細胞間情報伝達物質が多くの細胞の生存に必要です。 この生存に必須な因子を欠いたとき、細胞はアポトーシスを引き起こします(Hrk参照)。生存を命令する因子にも 受容体が存在しています。このように通常、細胞の生死は他の細胞から「死ね」「生きろ」というシグナルによる調節を受けています。これにより個体としての 統合性を維持しているのです。
この死のシグナルの受容からカスパーゼの活性化の間には、センサーからカスパーゼへのシグナルを仲介・伝達する分子が存在します。
こうして、アポトーシスを引き起こす@きっかけ(シグナル受容)A伝達B実行段階でさまざまな因子が関連しており、アポトーシスを調節していま
す。Bcl-2ファミリー(Ced-9の仲間)もその中の一つなのです。これが線虫からヒトまでアポトーシスの基本であることを前述の線虫
の遺伝学とあわせて学びました。
| 細胞の生死を決定する因子がくる
↓ 受容体に結合する ↓ 情報伝達物質が仲介←調節タンパク質 ↓ カスパーゼが細胞を破壊 ↓ 細胞死 |
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細胞はカスパーゼ9で死んだり、カスパーゼ8で殺される
わけです。なお、カスパーゼ8の経路は動物のほか、ハエにもやや類似の経路がありますが、線虫では見つかっていません。
もう1つ差があります。
Caspase-8を活性化する代表的なものにTNF(腫瘍壊死因子)とその仲間FasL,TRAILがあり
ます。その受容体は死受容体(death
receptor)と呼ばれ、免疫系で重要な役割を果たしています。TNFは細菌や真菌などに感染したとき作られる情報伝達物質です。TNFはIL-1βと
ともに炎症反応を起こします、つまり、他の細胞(特に免疫細胞)に感染したことを教えてまわります。死受容体はNF-kBを中心とした転写
調節因子を介して免疫系の活性化を引き起こす細胞間情報伝達物質の合成を誘導します。NF-kBはTNFやIL-1β遺伝子の転写を引き起こしますので、
TNFやIL-1βは自分自身の合成を促進し、全身性の炎症、つまり全身で感染に対して守る反応を起こすことができます。一方、caspase-9は発生
段階での計画細胞死などがその代表例で、感染時のcaspase-8の活性化とことなり、炎症を起こすような細胞間情報伝達物質を作らないことがほとんど
です。
| 細胞の外から 細胞の中から
他の細胞からのシグナル分子提示 遺伝子の障害(紫外線、抗癌剤など)や |
経路 シグナル センサー 自己活性化上位カスパーゼ 高活性型下位カスパーゼ |
原則的にはこの二つのキャスパーゼ系(カスパーゼ8と9)はいろいろなシグナルで使い分けられているわけですが、完全にそうかというと、そうで はありません。死のシグナル伝達に関与する因子も細胞が合成し、その量はさまざまな内外の因子によってコントロールされているわけですから。
また、この二つの系(カスパーゼ8と9)は必ずしもいつも並列というわけではありません。カスパーゼ8を含む死受容体系の蛋白質が比較的少ない
細胞でも細胞外からの死のシグナルに応答して細胞死を引き起こすことができます。これはカスパーゼ8の系を補完的にカスパーゼ9系が助けているためと推定
されています。その中心的な役割をなすと目されてきたのが単BH3蛋白質(後述)のBidで
す。Bidは通常細胞質に低活性型として存在しますが、一旦カ
スパーゼ8によって切断されると膜に移行してBcl
-xLとたいへんよく結合・拮抗するようになります。チトクロームcがミトコンドリアから流出して、カスパーゼ9が活性化されます。ただ、現在で
はBidは他
のcaspaseで切断されることが多いこと、caspase
で切断されなくても細胞死誘導することから、
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前述のようにTNFの仲間(FasLなど)にはアポトーシスを誘発するものがあります。細胞の表面にあってこれらと結合する受容体(い わゆる「死の受容体」)は、細胞の外側と内側に、センサー部分(リガンド結合部位といいます)と細胞内因子と結合できる領域をそれぞれ突き 出しています。後者はDD (死のドメイン)と呼ばれていて、FADD(別 名MORT1) などのDDをもつ細胞内タンパク質と結合します。ちょうどカスパーゼとカスパーゼ活性化タンパク質が互いに類似した構造部分(CARD,DED)で結合す るのと同じです。実際、機能だけではなくDDとCARD,DEDは構造が類似しています。
| DDタンパク質の詳細な一覧 | 研究者向け | A |
| TNFファミリーとその受容体の詳細な一覧 | 研究者向け | A |
さて、まず死の受容体はFADDまたはTRADDと いったDDを持つタンパク質が結合します。FADDは直接的にカ スパーゼ8(別名FLICE/MACH1/Mch5), -10(Mch4)に結合できます。TRADDにはカスパーゼに結合する領域が存在しませんが、DDを介して第二のDDタンパク質FADDやRIP、 RIPには第三のDDタンパク質RAIDD(別 名CRADD)が結合すると言われています。RAIDDはCARDを持っており、カスパーゼ2に直接結合して活性化を促進すると言われてい ます。受容体がシグナル分子(リガンド)に結合すると受容体,DDタンパク質,カスパーゼが集まって、その結果カスパーゼが活性化されます。我々の発見し たタンパク質CLARP(別 名Casper, I-FLICE, cFLIP, FLAME-1, CASH, MRIT) もカスパーゼ8の活性化を調節します。
アポトーシス抑制因子ARCは カスパーゼ2,8と結合するCARDを 持っているのですが、カスパーゼの活性化に必要な多量体形成ドメインであるDDが ないので、逆にアポトーシスを抑制してしまいます。ARCはアポトーシス促進因子であるRAIDDのDDが失われたようなものです。 RAIDD's失われたARC。死の命令に対して完全と立ち向かうARC。細胞が死のシグナルを受けた後も聖戦を続ける戦士ARC、がんば れARC!(注:「レー ダース/失われたアーク」とはいっさい関係ございません)。
| 死の細胞外シグナル分子[FasL]が提示される
↓ 細胞の表面で「死の領域(DD)」をもつ受容体[Fas]で情報を受ける ↓ 「死の領域(DD)」と「死執行領域(DED)」をもつ情報仲介物質FADDに伝わる 「死執行領域(DED)」をもつタンパク質分解酵素[カスパーゼ8]が働きはじめる ↓ 他のカスパーゼが活性化されて雪崩式に効果を増幅する ↓ 細胞を構築するタンパク質などが分解される ↓ 細胞死 |
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Hrkの遺伝子は先に述べたヘレンさんの細胞(HeLa)から単離 されました。この遺伝子を細胞に導入したところ細胞が死にました。細胞の死に方にも種類があることは以前述べましたが、Hrkは図のようにアポトーシスを引き起こします。まず、はじめに細胞が丸く小さくなりやがて細切れになり、12時間後には細 胞の死骸は土左衛門のごとく培地に漂うようになります。その過程で核が凝縮しますので、核を染色すると図のように一際明るく見えます。
| A | B |
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もっと余談をすると切腹は例え内臓をかき出しても早々には死なないので、中世戦国時代には武士の心意気を示す最後の手段として一般化しました。 いづれは死ぬのだから介錯人は本来要らないわけです。介錯人は最後の見苦しさを断ち切ることを目的にしていますので、もっとも親しかった者が行いました。 ところが江戸時代に入って世も平和になると名誉な刑罰の一種となり、様相も変わりました。本来腹を切るはずの懐刀も木刀になり、介錯人による「首切り」が 直接的死因になります。また、切腹人も独自の意志で自殺するのではなく、また自由な切腹も認められなくなります。ハラキリによる死は厳密に調節されるとと もにこれを支える多くのシステムができます。最終的には切腹人の生死は主君が制御しており、その伝使がその情報を伝えます。日取りが決まると見取役、介錯 人等がそろって初めて切腹を開始します。時代は移っても介錯人は生死に密接な関係にあるので切腹人が特異的に選択しました。ハラキリによる死は他の刑死と 異なり、一般と同様の葬式が行われることが多かったようで、形式的にもあきらかに他の死と異なります。もちろん、悪どい支配者によってハラキリは都合の悪 い者や役にたたなくなった者を除いたり、余分な者の口減らしに利用されました。(森鴎外「阿部一族」参照。映画 はこちら)
はじめ我々はBcl-2に結合するタンパク質としてHrkを単離したんですが、女の子がBcl-2と 双子の兄弟であるBcl-xLに 結合するタンパク質も独立に単離して調べたところ、Hrkと同一でした。女の子はがっくり でしたが、Bcl-xLはBcl-2と同様に細胞死を抑制しますので話がかみあいます。またHrkはBax, Bakな どの細胞の殺し屋とは結合しません。
遺伝子を解析したところ、Hrkは小さなタンパク質でした(下図A)。どうしてこんな小さなタンパク質が細胞を自殺に追いやれるのでしょうか。
そのころ同じ部屋でア
メリカ人と中
国人の二人がBaxを研究していたので、何度も研究について議論しているうちに重
要な構造は覚えてしまいました。タ
ンパク質は20種類のアミノ酸が一列に並んでいる構造をしているんです。それで、タンパク質のアミノ酸配列は通常SECLRR
IGDELDSNMEL QRMIADというような1アミノ酸1文字で表しますが、Baxの場合約
200文字と短く覚えやすかったわけです。ふと、自分のHrkを見ると図のようなBaxやその他の殺し屋タンパク質と同じ配列があるのに気づきま
した(下図B)。こうしてコンピュータによる相同性検
索は完全でないことを改めて痛感させられました。今では新規タンパク質が見つかる度にアミノ酸配列をワープロのマクロを使ってその性質に合わせて
色をアミノ酸の文字につけて一日モニターに表示して眺めることにしています。
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「反対の反対は賛成だよー」
細胞死誘発の阻害を阻害するらしいです。この機構は線虫からヒトまで保存されており、Ced-9(Bcl -2・Bcl-xLの仲間)はCed-4(Apaf-1の仲間)に結合してCED3(カ スパーゼ)の活性化を阻害し、Egl-1(Hrk の仲間、BH3タンパク質)はCed -4とCed-9の結合を阻害することでCed-9の阻害作用を阻害します(「死ぬのは人も 虫もいっしょ」参照)。
線虫にはアポトーシスが起きにくくなった変異体がいます。このうちの一つはCed-9の 変異体です。この変異体はEgl-1とCed-4の推定結合部位の境目の構造が変わっており、このため、Egl -1の結合が弱くなるとともに、Egl-1が結合してもCed-4がこの変異Ced-9からはずれなくなります。こ のことは単BH3タンパク質であるEgl-1がCed-9に結合してCed-4を放出することが大変重要であ ることを明瞭に示しています。
最近の研究から、実は単BH3タンパク質の一種Badは 細胞生存を促進するシグナルで阻害されることが明らかになりました。また、神経成長因子(NGF)がないと神経細胞は死にますが、こ のときHrkが合成されます。Bimはインターロイキン3(IL-3)があるとき、働けないように細胞骨格蛋白質にしばりつけられ ています。これらを考え合わせると、細胞生存因子は「アポトーシス促進因子を阻害する因子を阻害している因子の働 きを阻害している」といえます。
「賛成の反対の反対の反対は反対だよー」
以前Bcl-2ファミリーの一覧表にあげたように各Bcl-2ファミリーのメン
バーは機能は似通っているものの、異なったシグナルに応答したり、仲介したりします。このことにより、さまざまなシグナルがBcl-2ファミリーを介して
アポトーシスの根幹部であるカスパーゼとその活性化因子に結び付けられているのです。
| 生存因子(インターロイキン,神経成長因子など) ○
↓阻害または転写抑制[ces] BH3タンパク質(Bad,Hrk/DP5,Bimなど) [Egl-1] × ↓阻害 Bcl-xL, Bcl-2 [Ced-9] ○ ↓阻害 Apaf-1 [Ced-4] × ↓促進 カスパーゼ9 [Ced-3] × ↓促進 カスパーゼ3 × ↓ 細胞を構築するタンパク質の分解 ↓ 核・細胞質の断片化、遺伝子の分解、細胞膜構造の破壊 |
単BH3蛋白質には、転写制御によるもの(Hrk,
Egl-1)、
リン酸化によって直接的(Bad)、
間接的(Bim)
制御を受けるもの、カスパーゼで活性化されるもの(Bid)
とさまざまですが(後述)、総じて言えるのは、これらがアポトーシス抑制性のBcl-2ファミリーの一員のどれ
かと結合・拮抗できることです。Bad, Bak
とBcl-xLの複合体の解析から、BH3はBcl-xLのBH1・BH3領域などで形成される疎水性のボケットに結合することがわかりました。
BH3がこの領域に結合するともはやBcl
-xLはCed-4ファミリーと結合することはできません。
| 関連項目 | 関連リンクの説明 | リンク先 | 推 奨 |
| DP5 | マウスHrk、別名DP5のホームページ。DP5の研究の歴史がよくまとめられている | 福島県 立医科大学 生体情報伝達研究所 細胞科学研究部門内 | A |
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次にBcl-2ファミリーの生理的な役割について述べます。下流の因子であるApaf-1,Caspase-9,下位カスパーゼといった基幹となる因子がだいたいどこでもいつでもあるのに対して、Bcl -2ファミリータンパク質の量や活性は様々なシグナルによって調節されています。別の言い方をすると、恒常的に存在する下流の因子であるApaf-1, Caspase-9,下位カスパーゼといった基幹部分と上流の細胞の生死を決定するシグナルとを結びつける役割を果たしていると言えます。個別のBcl- 2ファミリータンパク質の量や活性を調節する因子はそれぞれ異なっており、この多様性ゆえに生命は細胞の生死を肌理細かく調節することができるのです。
現在までにbcl-2,bcl-x,bcl-w,A1,bax,bak,bad,bim,bid,mcl1を 欠くマウスが作られて、発生段階における役割を中心に解析されています。bcl-xとmcl1欠 損マウスが胚発生段階で致死となる他は、仔ホモ接合体マウスが得られます。bcl-2の 欠損マウスは成熟TおよびBリンパ球、発生段階での腎細胞やメラノサイトなどのアポトーシスが増進することから、Bcl-2はこれらの細胞の生存に重要で あると考えられます。bcl-x欠損マウスでは神経系や造血系などの細胞でアポトーシスが増進していました。bcl-x欠 損キメラマウスでは未熟BおよびTリンパ球が半減しますが、bim欠 損マウスは未熟BおよびTリンパ球の蓄積しますので、両遺伝子が未熟リンパ球の生存に対して拮抗的に働いているようです。実際Bcl-2を余分に 作るマウスやBimを欠いたマウスでは、本来ならなくなる自 分自身を攻撃するリンパ球が死なず、自己免疫疾患を起こしてしまいます。bak,baxは生理的な役割がオーバーラップしており、両遺伝子を共に 欠くとき、様々な異常が生じます。Apaf-1の ないマウスのように指の間の細胞がアポトーシスを起さないので、水かきをもったネズミになってしまいます。p53依存性、ERストレスや成長因子除去によ るアポトーシスもなくなり、bax,bakがこれらのアポトーシスに重要であることがわかりました。以前、述べたように p53は遺伝子の傷ついた細胞でアポトーシスをおこして、癌になるのを防いでいますが、実際、baxを欠くマウスでは癌 になりやすくなり、MMP+大腸アデノカルシノーマで実に半 分はBax遺伝子が壊れています。ただ、神経ではbaxとbakの両方を欠いても細胞死が若干抑制されますが、 caspase-9やApaf-1ほど劇的ではないので、神経などで重要な役割を果たしているアポトーシス誘導因子がいるみたいです。
Bcl-2ファミリータンパク質を欠くマウスを調べてみると、アポトーシスが予想外に精子や卵子を作るのに重要な 役割を果たしていることがわかりました。精子形成の過程では精原細胞の多くがア ポトーシスを起こします。この時期にどうしてアポトーシスが必要なのかよくわかりませんが、正常な精子を作るのに必須の役割を果たしています。bcl-w欠 損マウスでは精巣における精原細胞のアポトーシスが促進されていて、bcl-wは精子形成のごく初期の過程でのアポトーシス抑制に 重要な役割を果たしていると考えられます。また、アポトーシスを起こす時期の精原細胞ではBaxの 強い発現が認められ、bax欠 損マウスは正常な精子ができません。Divaは さらに後期の精母細胞において特異的に発現していますが、この生理的役割もまだわかっていません。一方、卵巣でもアポトーシスは卵子を作るのに大切です。 卵母細胞のうち、排卵されるのはごく一部であり、ほとんどは周りの顆粒膜細胞とともにアポトーシスを起こします。卵巣顆粒膜細胞ではBax、Bok(別 名Mtd)、Diva(別 名Boo) が強く発現しています。bax欠 損マウスでは本来死滅すべき濾胞細胞のアポトーシスが抑制されていますので、濾胞細胞の細胞死の調節にこれらのアポトーシス促進性Bcl-2ファ ミリーが関わっているらしいです。まだまだ調なければならないことが多そうです。
Bcl-2ファミリータンパク質の活性調節にはいくつかの方法があります。
第一の調節機構は量的な調節です。
タンパク質の量を決める重要な段階の一つは、遺伝子DNAからmRNAができる過程(転写といいます)です。血球系細胞は他の細胞から与えられるインターロイキンなどの生存因子 がなければアポトーシスを起こします。この生存因子の制御する転写調節因子によってアポトーシスを抑えるBcl-2ファミリータンパク質の量は調節されて います。bcl-2はIL-2,-4お よび-7な ど、bcl-xはIL-3,エ リスロポイエチンなど、mcl1とa1はGM-CSFな どによってmRNAの量があがります。bcl-xの場合、これらのシグナル分子は転写調節因子STAT ファミリーによって調節されています。実際、STAT5 を欠いたマウスではbcl-xの発現がなくなり、アポトーシスが起きます。
また、Bcl-2とその仲間がアポトーシスを調節している場所は、その種類で異なっています。こうしたBcl-2ファミリーの持ち場分担ができ る1つの理由は、Bcl-2ファミリーが、その働く組織や時期にだけ存在するように転写調節されているためです。bcl-2の場合、成熟T リンパ球で重要な役割を果たす転写調節因子NF-AT4に よって、bcl-xはさらに造血に重要な転写調節因子GATA-1に より転写調節を受けています。
A1の発現は炎症系のサイトカインやバクテリアリポ多糖(LPS)でも誘導されますが、これは転写調節因子NF-kB(調 節機構は後述)の活性化によるものです。NF-kBの活性化はときにアポトーシスを抑制しますが、A1の研究者はこの効果がA1によるものであると考えて います。
単BH3タンパク質の中にも転写がその活性調節に重要な役割を果たしているものがあります。
モデル系として使われてきた線虫では、体ができる途中でアポトーシスがおきますが、抗アポトーシスBcl-2ファミリータンパク質であるCED9が 恒常的に発現しているのに対して、単BH3タンパク質Egl-1が 組織・時期・性 特異的に発現してアポトーシスを誘導します。
ヒトの単BH3タンパク質ハラキリ(Hrk) やBimは、 アポトーシス抑制性Bcl-2ファミリータンパク質と全く反対の挙動を示します。つまり生 存因子の除去すると誘導される遺伝子です。
| 遺伝子名 | 機能 | 転写調節 | 上流調節因子 | 考えられる生理的役割 |
| bcl-2 | 抑 制 | Aiolos, Myb, Brn-3a, p53, Bcl-6, NFAT4, PAX8, RAR/RXR, WT1, PU.1, Pi1, STAT3, CREB, GATA-1, SP1/ER | ILs, G-CSF(-), EGF, TGF(反 対),IGF-I, 女 性ホルモン, NGF | リンパ球やメラノサイトなどの成熟に伴う細胞死抑制。生存因子依存的な未熟細胞の細胞死抑制? |
| bcl-x | 抑 制 | GATA-1, Ets2, NF-kB, Bcl-6, STAT3, STAT5A&B | Epo, IL3, CD40, EGF, GM-CSF(反 対), TGF, 女 性ホルモン, | 神経系や造血系などの成熟に伴う細胞死抑制。生存因子依存性細胞死抑制 |
| mcl-1 | 抑 制 | SRF/Elk-1, CREB | GM-CSF, DNA 傷害, IL3, gonadotropins | マクロファージ系の成熟に伴う細胞死抑制 |
| A1/bfl-1 | 抑 制 | NF-kB, STATs | GM-CSF, LPS, CD40 | マクロファージ系の成熟に伴う細胞死抑制。NF-kB活性化によるアポトーシス抑制? |
| bcl-w | 抑 制 | 雄性生殖細胞の成熟に伴う細胞死抑制 | ||
| bax | 促 進/抑 制 | p53(反 対) | G-CSF, IL1 | p53応答性細胞死。細胞死増強。生殖細胞の細胞死による選択 |
| bak | 促進 /抑制 | p53 | p53応答性細胞死。細胞死増強。 | |
| bok/mtd | 促 進 | 生殖細胞系のアポトーシス調節? | ||
| diva/boo | 促 進/抑 制 | 生殖細胞系のアポトーシス調節?NF-kB活性化によるアポトーシス抑制? | ||
| harakiri | 促 進 | NGF/IL3除 去,β アミロイド | 神経、造血系統の未熟・異常細胞のアポトーシス誘導? | |
| bik/nbk/blk(1) | 促 進 | ? | ||
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